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前述の通り1人でスキーに行った帰り道、ヒッチハイカーに遭遇しました。
大きな荷物と共に1人の男性が、行き先の地名が書かれたプレートを持って国道脇の歩道に立っていました。
夜で、あまり街灯のない暗い場所だったという事と、まさか今どきヒッチハイクをしている人がいるとは思わなかったので、
「あれ、今のは・・・もしや!?」
と思ったときには、通り過ぎてしまいました。
「まあ・・・私が拾わなくても・・・そのうち誰かが・・・」
そう思いながら1〜2km走りましたが、どうしても気になって仕方ありません。
「この寒空で、誰も乗せてくれなかったら・・・あの男、死んじゃうんじゃないか?」
車の流れが切れた一瞬の隙にキャラバンをUターンさせ、先ほどの場所へ向かいました。
その間に誰かに拾われて、もしそこに誰もいなかったら・・・それはそれでいいじゃん。
無駄足を覚悟で現地についてみたら・・・あの男、まだやっていた。
再び車をUターンさせてハザードをつけて停車すると、メガネをかけた中年風のその男は、キャラバンめがけてすっとんできました。
「お〜い、乗って行くかい?」
「いいですかぁー!わーい、やったあぁぁぁぁ!!!」
ものすごい喜びよう。
聞けば、かれこれ3時間もこうやっていたとの事。
まずは荷物を・・・しかし、彼の荷物の大きさに唖然。
とても大きなコンテナボックスが2つ、キャリーに積まれています。
そりゃあ、私のキャラバンはバイクを積むためのバン(貨物車)ですから、コンテナくらい楽々積めますとも。
でもね、普通の乗用車の人が停まってくれても、その荷物じゃ載せられないって!
その荷物を見たらみんな引くって!
もっと考えなよ!
などと、えらそーに説教くれつつ走りながら話を聞いたところ、彼について次の事がわかりました。
1.彼の本職は詩人であり、自分で書いた詩を路上で売って放浪生活をしている。
2.行き先を書いた地名は、特にアテがあるわけではない。
3.現在の所持金は\3,000である。
4.今日はもう遅いので、路上で仕事をする気はない。
5.泊まる所がないとき、彼はよく『マンガ喫茶』を利用する。
6.彼の名前は『GON』。もちろん本名ではないが・・・
『1』については、某新聞に取材されたことがあるとのことで、切抜きを見せてくれました。

客の目を見つめ、何を思っているのか感じ取り、それをその場で詩にして書く・・・
ということらしい。
ふ〜ん・・・
『3』の所持金は、私と出会う数時間前に、アベックに詩を書いてそれが\3,000で売れたらしい。
へ〜・・・
でも、私にとっては、そんなことはどうでもいい。
ヒッチハイクをしている旅人を放っておけなかっただけだ。
本来、ヒッチハイクはその目的の場所まで乗せてあげればそれで充分なハズ。
でも、『2』『3』『4』から判断して、早く寝る場所を探してあげないと、凍え死んでしまうよ・・・
もしや、最初から泊めてもらうのが目的だったのか?
などと勘ぐったりもしたが、実は私はそれほど優しい人間でもない。
じゃあ『5』だな・・・
なるべく大きな駅に向かい、マンガ喫茶を探しました。
とりあえず、最初に彼が表示していた行き先へ向かいました。
すると、駅前にはしっかりとマンガ喫茶がありました。
ここへは初めて来たらしいので、ただの偶然のようですが・・・
で、一緒について行って、とりあえず入店できることを確認しました。
なんでも、身分証明書とかいろいろややこしい所もあるらしい。
ただ、ここで一夜を明かすと、彼の所持金はほとんど無くなってしまいます。
かと言って、駅で寝ようとしても終電がなくなれば追い出されてしまうだろうし・・・
好きでこういう生活をしているのだろうから、本来私がそこまで心配してやることもないのかもしれないが、この寒空で外へ追い出すのはかわいそう・・・
ましてや、マンガ喫茶があるんだから、そこで一夜を過ごせば快適なのでは?
この際だから、その費用を出してあげようかとも思いましたが、何もしないでお金をあげるのは、私としても納得がいかない。
そこで私はこう提案しました。
「よし、じゃあこの場で私に詩を書いてくれ。それを私が買ってあげよう。そうすれば、マンガ喫茶で一夜を過ごすくらいの稼ぎにはなるだろう?」
この提案を彼はすぐに承諾しました。
さて、いざ仕事を始めようとしましたが、いったいどうしたものか・・・
いつもなら、路上に敷布やら墨やら筆やらの道具を並べて店を広げるらしいのですが、このマンガ喫茶の駐車場で・・・!?
しかも、かなり冷え込んできて、外にいるだけでもそうとう寒い。
「それなら、車の中で書いたら?」
彼はちょっと戸惑った様子でしたが、キャラバンの荷室だったら充分な広さがあります。
「では、ここで始めさせていただきます。」
まず、彼は半紙の上半分に私の名前を書きました。
そして、
「私の目を見てください。」
私は自分の思いを強く念じ、じっと彼の目を睨んだ。
私が今、モトクロスに夢中になっていること、もっともっと速くなりたいことなど、彼との会話の中で明らかにした本心を、彼はどう読み取って、どう解釈して、どんな詩にしてくれるのか・・・
数秒間見つめあった後、彼はヘッドホンを着けた。
漏れてくる音を聞くと、何やらやさしい音楽が、大きな音で流れているようだ。
どうやら音楽によって、邪念を振り払い、集中しているようだ。
このように、他の音が一切聞こえない状態も一種の『静寂』だと、昔何かの本で読んだ事がある。
ヘッドホンで音楽を聴きながら、私の名前を書いた半紙の下半分に、すらすらと詩を書いていった。

うん・・・まあ・・・そうだね・・・がんばるよ。
あいまいな返答しかできなかった。
私には、そういう文学的なセンスはあまり持ち合わせていないかもしれない。
でも、まあ・・・チャレンジし続けていくことが、私らしい生き方なのかな・・・と、妙に納得。
実は・・・このところ、練習している割には速くならない自分に、ちょっと落ち込んでいたりしていたのだ。
さて、彼はこの詩に値段を付けてくれと言ってきた。
え、私が?
さて困った・・・
いったい、いくらくらいが相場なのだろう?
あ、さっきの人は\3,000くれたっていってたっけ・・・
財布の中を見ると、1万円札が1枚と千円札が2枚。
さすがに1万円くれてやる訳にはいかないし、お釣りを要求するのもナンだよな・・・
ってことで、\2,000払ってあげることにしました。
これなら、マンガ喫茶の一晩分になるだろう。
「ところで、GONちゃん、飯は食ったのかい?」
と、うっかり聞いてしまった。
「いえ・・・食べてません。」
ああぁ、やっぱり。
そんなこったろうと思った。
GONちゃんに出会う直前にコンビニで買ったおにぎりと、明日の朝食にしようと買っておいた菓子パン3つ、そのまま持たせてあげました。
GONちゃんは、それを持って満面の笑みでマンガ喫茶に入っていきました。
はたして、その後も元気でやっているだろうか・・・ |